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メッセージ

「シアトルの伝説のカフェ(文庫版):ビーンズ!(ランダムハウス講談社文庫)」という本をご存じだろうか?
シアトルにある小さな個人経営のカフェが舞台だ。このカフェは、有名チェーン店でもなく立地条件が良いわけでもない。 それにも関らず、朝から毎日行列ができるカフェとして、地元の人々に長年愛され続けている。シアトルには、現在も、この店が実在しており、小職も一度立ち寄りカフェラテを頂いたこ とがある。この本は、なぜ、特段何も変わった点もない小さな店がこれほど愛され続けるのかという考察を述べた、いわゆる、ビジネス本である。

「カフェ経営にとって最も大事なことは、Passion(情熱)Person(人) Personal(温もり)Product(商品)である。これが、この店のオーナーの信念だ。この4つの“P”が『志と目標』を生み出す。 どこへ行きたいのかわからなければ、目的地に着いても気づかないということになる。

この本の冒頭、「すべては情熱からはじまる」というフレーズがある。つまり、「情熱」こそ、一番大事であると。 この主張は、ある意味想定内であり、面白みに欠けている。一方、心の中心に突き刺さるような主張にも感じられる。 大学院大学化以後、理工系分野では、多くの学生が大学院に進学するようになった。一方、「なぜ、大学院に行くのか?」、「何が研究したいのか?」、漠然とした学生も少なくない。「周りが行くから・・・」というのが、多くの学生の本音かもしれない。小さな頃、 感じた「何かを見て不思議だなと思った気持ち」、「何かを作って思い通りにできたときの喜び」、「解らないことが解った瞬間の喜び」を持ったまま大学院に進学して欲しいと思う。

理科離れが深刻化する昨今、この本にある「すべては情熱からはじまる」という信念が、これから研究者・技術者をめざす若手研究者の心に響くものであって欲しい。この信念が、 現在、教育および研究開発に携わっている自身にとっても、最も、「大切なこと」として心に留め、教育・研究活動に邁進していきたいと考えている。修士論文や博士論文に向けた研究で、もっと、もっと、 心を籠めて向き合うと、今までに経験したことのない感動を研究が運んできてくれる。

これから材料を研究していこうとする若い世代の研究者には、是非、『情熱から研究をはじめる』ことを体感して欲しいと切に思う。きっと、その先には、素晴らしい研究の世界が広がっている。

Nagahiro Saito・齋藤 永宏

齋藤永宏研究室

〒464-8603 愛知県名古屋市千種区不老町
名古屋大学大学院工学研究科 化学システム工学専攻
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